石見銀山 群言堂

第五話 十和田湖と仲良くなるための装置をつくる|十和田湖畔の喫茶店から 中野和香奈

新緑がだんだんと深緑へ。前回のトップ画面と葉の色が全然違うので、ぜひ比べて見てください。

こんにちは。全国的に猛暑ということですが、十和田湖も例年より暑くなるのが早いです。7月に入り、最高気温30℃ほど。木陰であれば心地よく過ごせます。暑いと言っても都心に比べればまだまだ過ごしやすい気候の十和田湖です。

こんな日は、ぜひ十和田サウナがおすすめです。

喫茶憩いに貼ってあるテントサウナのポスター。誰に頼まれたわけではないですが、友人のデザイナーに頼んで制作しました。憩いやyamajuに貼ってもらっています。

「十和田サウナってば人気なんでしょ? サウナして、湖入って、気持ちよさそうね〜。いいところにできたよね。お客さんもこのポスター見て興味津々よ。最初はテントだったもんね」

今日も喫茶憩いで英子ママと他愛もないおしゃべり中。

目の前は十和田湖。森の中に佇む十和田サウナ

2年ほど前からサウナブームが到来。全国各地、次々に個性あるサウナ施設が誕生しているのは、サウナ好きでない方もなんとなく耳にしていることと思います。

その流れの中で、ではありませんが、「十和田サウナ」は昨年のゴールデンウィークに十和田湖畔にオープンしたネイチャーサウナです。第1話でも少し紹介しましたが、サウナを運営しているネイチャーセンス研究所の代表を務めています。


第5話では、十和田湖になぜサウナが誕生したのかを紹介します。

テントサウナを輸入して湖畔で遊びはじめた3年前。

十和田湖でサウナが始まったのは3年とちょっと前。

仲間の1人、十和田湖在住歴6年めに突入した安藤巌乙氏(この方の紹介もまた追って)がテントサウナを購入したことからはじまります。安藤氏曰く、「森と湖と仲良くなれる方法はサウナだ」と思い立って、個人でロシアから直輸入したそうです。(当時はテントサウナの代理店がなかったため)

それまで私たちの十和田湖での遊びは、カヌーやランブリング(山歩き)がメイン。サウナが湖と仲良くなれる方法? そんな発想は1ミリもなかったのです。私自身がサウナは熱い箱に入ってのガマン大会、そんな風にしか捉えていなかったのも大きかったのですが……。

考えてみれば、北欧の文化圏では、サウナと森と湖は切り離せないもの。エストニアでは世界遺産になるくらい文化として根付いています。それを十和田湖に輸入しちゃおうってことですね。北東北の奥地、北奥と書いてホクオウとも呼ばれる十和田湖は、思えば北欧と環境が似ているところがたくさんあります。北奥と北欧、いろんなワクワクが私の中でも重なりました。

サウナで身体を温めたら、十和田湖(水風呂)へ。

最初はもちろん、疑心暗鬼。恐る恐る100℃近いテントサウナに入ります。やっぱり長時間は無理! 熱い! となって十和田湖へザブン!

「?」

そう、当時十和田湖に拠点をもって2年。初めて湖に入ったのがこの瞬間でした。

熱々の身体が冷めて、とにかく気持ちいい! 淡水で透明度も12mと言われているほどなので、自分の身体を清めている感じ。「湖って入っていいのか〜」と、心の声。

そしてその後の外気浴。

心地いい風に気持ちを乗せて、森に身体をあずけます。目を閉じれば自然と自分が一体化したような感覚。確かに仲良くなっている! そんなことを実感した初めてのサウナ体験でした。サウナというよりは「自然体験」と言ったほうがしっくりきますね。

サウナはあくまできっかけに過ぎず、十和田湖と仲良くなるための装置なのです。

新しい十和田湖との付き合い方に、仲間同士はまっていくわけです。夏も冬も、サウナが私たちの「遊び」に加わりました。

そして段々に、これを私たちだけで囲っているよりも、十和田湖の魅力を伝えるアクティビティとしてもっといろんな人にも体験してもらえたほうがいいのでは? という考えに至ったのです。国立公園の補助金を利用してサウナ小屋を立てて(詳しくはこちら)ビジネスとして成立させようと準備を進めていきました。

しかし、それを誰がやるのか? みんなそれぞれ仕事を抱え、毎日現場に立てる人はいないし……。

と、ここで現れるのが樋口陽介くん。

なんとなくでサウナをつくる段取りは整えていたところ、先ほどの安藤氏に一通のDMがやってきました。

「僕も十和田湖でサウナがやりたいです」

突然のDMに私たちも驚きを隠せません。とりあえず次のテントサウナをするタイミングで「来てみたら?」と返事をします。

十和田湖に感謝する樋口くん

そして、当日になって坊主頭の長身、愛嬌のある27歳の男の子がやってきたのです。


話を聞くと、高校時代は花園に出場し、関西の大学でラグビー部に所属していた元ラガーマン。某肉メーカーに務め、転勤で十和田市街(十和田湖からは車で片道60分の距離)に住みはじめたばかりといいます。十和田湖へ遊びに来たとき、yamajuに貼ってあるテントサウナのポスターを見て、「十和田湖」、「サウナ」などと検索し、私たちにたどりついたのでした。

樋口くんが見かけたのはコレ。憩いのポスターのフィンランド語版をyamajuに貼ってます。

サウナと自然が大好きで、アウトドアサウナにもはまっている、ちょうど今の働き方に悩んでいた時、十和田湖とその周辺にいる私たちのコミュニティに入ってきました。

彼が十和田サウナの管理人になるのは、自然の流れだったとしか言いようがありません。

「素敵な自然と、素敵な大人(ぜひ過去記事もご覧ください!)がいたから、自分も仲間に入りたいと思った」(樋口)

十和田湖に人生を変えられちゃいましたね〜

というわけで、代表が私、管理人が樋口くん。この2人で運営をすることになったのです。ありがたいことに、コロナ禍でスタートした事業でしたが、なんとか樋口くんが食べていけるだけの実績を残すことができました。今ではもう1人管理人を増やして、2人体制で現場を回しています。

十和田サウナの管理人。右が樋口くん、左が千葉くん。

実はこの2人目の管理人である千葉大くんは、昨年は十和田サウナのお客さんでした。

「ここで働かせてください!」

と言って来たのは去年の夏。しかしまだ始まったばかりで体力もなく、お断りをしていましたが、今年3月から晴れて十和田サウナの一員となりました。

「十和田湖があればもう何もいらないですね」そんなことを呟きながら、千葉くんは働いています。この人もまた、十和田湖に人生を変えられた人。

十和田サウナの外気浴スペース。森と湖、自然が奏でる音に耳を澄ませて。

十和田サウナは、必然にこの場所にできたと思っています。流行りでもなく、そこにあるべきものだと私たちは考えます。十和田湖を活用することで、この自然の畏怖を感じ、守らなければいけないのです。

先に、北欧の文化を輸入するとお伝えしてましたが、思想も含めてだと思っています。

「自然享受権」

ありのままの自然を敬いつつ、誰もが自由にそれを利用できる権利。山菜採りなど森の恵みをいただくこと、夏の湖水浴や冬のスキー、もちろんサウナも。人が自然を守りながらも、当たり前に共存して楽しむことができるのです。

十和田湖を訪れる人が本質的に自然を理解し、楽しめる場所。十和田サウナは、そんな場所を目指しています。


筆者プロフィール

中野和香奈

なかの・わかな

編集者/インテリアコーディネーター。住宅会社のインテリアコーディネーターを4年勤めた後、北欧雑貨・家具をメインに扱うインテリアショップへ転職。店長、バイヤーを経験。2014年から雑誌編集の世界へ。雑誌『Discover Japan』の編集を経験し、現在は十和田サウナを運営する合同会社ネイチャーセンス研究所所長のかたわら、編集・執筆、インテリアコーディネートの業務も行う。

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