第三話 企んでいない、自然体の場所「yamaju」|十和田湖畔の喫茶店から 中野和香奈

4月末、晴れ。十和田湖の萌芽の季節。今日も喫茶憩いから。この借景の移り変わりを楽しむ日々。

こんにちは。早いものでこの連載も第3回目を迎えます。十和田湖は春の陽気。ようやく山桜が咲きはじめました。

今日は、コワーキングスペース兼ゲストハウスを運営する、十和田湖の友人夫婦についてお話ししようと思います。

徐々に山菜モードの英子さん。朝の山菜採りのため、喫茶憩いは開店時間が遅くなる日が増えるかも?

「やめちゃったお店が開いたの。若い人が仙台から来てね」

今日もまた、喫茶憩いの英子ママとおしゃべりする中野です。

「山寿(やまじゅ)のシャッターが開いたときね、都会の風が入ってきたなーって思ったの。

活気が出たわよね。若い人たちが頑張っている姿を見ると、こちらも頑張らなきゃと思うし、あんな風にもっとお店が開いてくれるといいわね」

今年は少し新録の時期が早い十和田湖です。山桜もチラホラ。

国立公園にも指定されている十和田湖は、日本屈指の景勝地。いわゆる昭和から平成前期の、大型バスを貸し切っての団体旅行を受け入れるためのレストラン、土産物店、ホテルが軒を連ねる地域です。

と言っても、バブル崩壊、2011年の東日本大地震の影響もあって、その多くが廃屋として残っているのが現状。圧倒的な大自然を前に、さびれた空気感を醸し出し、誇るべき景観をつくれていない、そんな課題も抱えている地域です。

英子さんが冒頭にコメントしたやめちゃった店の「山寿」も空き店舗の一つでした。1階は土産物販売、2階がレストランとして営業していたお店です。

小林徹平さん(左)恵里さん(右)。夫婦で株式会社風景屋を経営。yamajuを拠点にとわだこマルシェはじめ、さまざまなイベントの企画運営も行い、地域に賑わいを生み出しています。その活動は十和田湖だけにとどまらず、関東・東北のお仕事も。詳しくは→https://fuukeiya.jp/  写真提供:mayanoue

ここのシャッターを開けたのが、今回湖畔の仲間として紹介したい小林徹平さんと恵里さん。(以降てっちゃん、えりちゃん)新しい「yamaju」のオーナー夫妻です。

改装前の「山寿」。右奥が中野、時計周りにイラストレーターの花南ちゃん、私の編集の先輩でもある安藤さん(当時環境省職員)、鳥博士とみんなに呼ばれているのびちゃん。 写真提供:yamaju

とある日のコワーキングスペース。開放的で気持ちがいい空間。 写真提供:yamaju

yamaju外観。完成形ではなく、ここからもずっと変化を続けています。 写真提供:yamaju

現在のyamajuは、会員制のコワーキングスペース兼ゲストハウス(ほかにチェアリングサービス、ピクニックセット販売、貸しシャワーサービスや不定期の図書館もやってます。盛りだくさん!)。私の十和田湖の拠点であり、デスクワークはほぼここで行なっています。

私が東京から十和田湖に通うようになったのが約5年前。当時十和田湖には仕事をする環境は全くありませんでした。そこに登場したてっちゃん。青森県の事業で、十和田湖・休屋(やすみや)地区の景観の分析と計画立案を依頼され、十和田湖へとやってきます。

東北でさまざまな計画・設計に携わっている彼は、やるからには根を下ろしたいタイプ。仙台に自宅はあるものの、まずは事務所をつくろうと、休屋の空き家を借りたのでした。それが「山寿」です。

最初は合板に仮設の脚をつけてのデスク。そこにあれよあれよと同年代の仲間が集まります。当時は最大で6人くらいでしょうか。夕方になると、空き店舗の雑然とした空間にお酒や料理が持ち込まれ、十和田湖の夜会は盛り上がりを見せます。

「十和田湖をこういう場所にしたい」「こんな施設あったらいいね」「どんな楽しみ方ができるかな」そんなことを議論する日々でした。話をしていくうちに、てっちゃんはここを「十和田湖にあったらいいな」を叶えるための場所にしてしまおうと一心発起したのです。

それからというもの、「yamaju」という施設名、コンセプトの「あずましい湖を楽しむうつわ」など、具体的なさまざまがここで決まっていきました。

オープンから丸3年が経とうとしているいま、あらためて「yamaju」について、てっちゃんとえりちゃんと話をしてみることにします(もちろんビールを片手に)

今日も17時頃からゆるゆる飲みながら、話しながら、宴に入ります。

中野:yamajuはさ、オープンからすごく変化していると感じるんだけど、あらためてどんな場所だろうね。

てつ:ゲストの人柄や考え方に触れられる場所。4泊以上してもらう中で、つくった料理を持ち寄って湖畔のメンバーと一緒に夜ごはんを食べる機会があるから、(yamajuは自炊用キッチンを備え、基本は素泊まり)ゲストのことを少しずつ知れる。いつも帰る時には友達みたいになってると思っています。すごく豊かな環境だと思う。最初はそういう場所になるとは思ってなかったけど。

中野:私たち3人のプライベートな仕事場だったよね。まだコロナ前だったし、中長期滞在が世の中に受け入れられていなかったかもね。十和田湖の自然を楽しむなら最低4泊っててっちゃんが決めた時、すごく賛同できるけどゲスト来るかなーって(笑)

てつ:そうだね〜(笑)コロナ禍では、都市に住む人が「自然」を求めてきているな〜って感じはするね。

中野:ワーケーション需要も増えたし、観光という概念も少しずつ変化してきてて、私が言うのもなんですが、時代がyamajuに追いついてきたよね(笑)。

てつ:長期滞在のゲストがいると、夕食時に湖畔のみんなが来てくれる。みんなが一気に集まる時もあれば日替わりで来ることもあって、毎日ゲストと仲間のセッションが見れるのも楽しいんだよね。それぞれ得意分野があって、いろんなことを語れる人たちが集まっている。いつも話をしている仲間の違う側面も見えたりね。

ゲストを囲んでの食事の様子 写真提供:yamaju

えり:私はyamajuがあるのは、ここに来てくれる湖畔のメンバーのお陰様だと思ってる。私たち2人だけでもてなしても、民宿とかペンションみたいになるんだよね。滞在してくれたゲストから「十和田湖の暮らしに混ぜてもらっているような気持ちになりました」と言ってもらうことが多いんだけど、それはここでの出会いを楽しんでくれる湖畔のメンバーがいてくれるから。6月で丸3年になるけどさ、ゲスト来るたびに夕食集まってくれて、多い時は週に3、4回はご飯一緒に食べてたよね。だからこその満足度だと思うな。それがね、メンバー側がきつくなったら意味がないから、心地よいペースでとは思ってる。

てつ:自分のことも話せるし、ゲストの話もじっくり耳を傾けられる、そんな場所になってほしいよね。かっこよくいうと避暑地のサロンみたいな(笑)。1900年代前半、世界じゅうから活躍してたアーティストがパリのサンジェルマン・デ・プレに滞在していた時期があると思うんだけど、何でそんなに集まってたのかなって考えたら、絶対的に楽しかったんだろうなって。十和田湖でインスピレーション受けて、住人からも刺激もらって、何かしら表現方法が変わったらおもしろいと思う。

中野:アーティストに限らずね。

てつ:うん。十和田湖が、何かが生まれるかもってワクワクする場所になってほしい。あとさ、この間地域のおばあちゃんたちと話をしていたら、十和田湖の山野草でお茶をつくりたいと言ってて。そんなことも気軽にできるようにしたい。おばあちゃんがキラキラしてるのっていいよね。それがたとえばyamaju のゲストと交わることがあってもいいし。文化が生まれる場所になる。

中野:老いることは楽しいって思える場所にしたいな〜

えり:ここで生まれたやすくん筆頭に、湖畔のメンバーは本気で十和田湖を楽しんでいるし好きだよね。力説されたらゲストもなんか引き込まれちゃうと思う。

中野:ここの仲間たちに囲まれたらいい意味で逃げられないかも(笑)でもそういう人が集まってるってすごいよね。そしてyamajuに来たら会えるかもしれない。

えり:すべて巡り合わせだよね〜


以上、現場より少しだけ3人の会話をお届けしました。

あくまで中野視点ですが、てっちゃんとえりちゃんが運営するyamajuの在り方は「十和田湖ファースト」です。4泊以上なのもじっくり自然を楽しんでほしいから(一方で地元の宿泊施設と競合にならないようにとも)夕食会も十和田湖の暮らしに少しでも触れてほしいと思っているから。もちろんゲストともきちんと向き合っています。

ゲストのためにこれを必ずしている、という明確なサービスがあるわけではありません(夕食も自由参加です)。会話をしながら、まるで友人が自宅に遊びに来たように対応してくれます。実際に2人の友人も訪れていますが、友人だからといって、ゲストとの差はほとんど感じられません。誰が来ても、自分たちが魅了されたこの十和田湖をただただ感じてほしい、純粋にそう思っているだけなんだと思います(部屋数が「3」というのも、他にも仕事をもつ2人のペースに合っているのかな?)。

夕食会も初めから開催していたわけではありません。ここyamajuは2人の暮らしの場でもありますから、まずは自分たちの心地いいと思うことをしたり、空間をつくっています。企んでいるわけではないんです。ゲストと同じようにここで寝て、仕事をするからこそ、もっとこうしようが商売目線ではない。常に2人の暮らしとともに少しずつ変化し、成長している環境なのです。恵里ちゃんは「地味に地道にやっていく」と言っています。

会話だけでは伝わらないと思いますが、2人の豊かな人生経験とセンスがこの場所を創り出しているのです。ここを訪れればそんなことも感じてもらえるかな、と思います。

とにかく行動力がすごい! と私はいつも感心するばかり・・・2人については、もっと掘り下げて紹介したいところですが、それはまた別の機会に。気になる方は、ぜひyamajuに滞在してみてください。きっと初日の夕食時、まずは2人の馴れ初めからじっくり教えてくれると思います。そして私も隣に座っているはずです。

yamaju

株式会社 風景屋


筆者プロフィール

中野和香奈

なかの・わかな

編集者/インテリアコーディネーター。住宅会社のインテリアコーディネーターを4年勤めた後、北欧雑貨・家具をメインに扱うインテリアショップへ転職。店長、バイヤーを経験。2014年から雑誌編集の世界へ。雑誌『Discover Japan』の編集を経験し、現在は十和田サウナを運営する合同会社ネイチャーセンス研究所所長のかたわら、編集・執筆、インテリアコーディネートの業務も行う。

暮らしびとの他の記事