石見銀山 群言堂

さつまいも | 風土、いただきます vol.1

「人を思う心」つながる280年の系譜。

旬の味覚を味わうとき、見えてくる風景がある——。この里山の風土に息づく味な物語を訪ねるシリーズ第1回目は、さつまいも。江戸時代に「芋代官さま」と呼ばれた人物によって、この地にさつまいも栽培が導入されてから約280年が経った今、「バナナより甘い」と言われるさつまいもが新たな地域名産品として脚光を浴びています。

銀山のまちを救った芋代官さまのこと

石見銀山の里で、今なお「芋代官さま」と親しみを持って語られる人物。それが井戸平左衛門です。群言堂本店の近所にも、彼を祀った「井戸神社」や、「いも代官ミュージアム(石見銀山資料館)」があり、彼が生きた記憶を今につないでいます。

引用元:山田泰三 / iwamiginzan.jp(2018年5月21日撮影)

引用元:四方田俊典 / iwamiginzan.jp(2017年12月7日撮影)

井戸平左衛門が石見代官を務めた期間はわずか2年。それまで幕府で30年以上も勘定役(今でいう会計係)を務めていた彼は、八代将軍吉宗の治世下、なんと60歳にして遠路はるばる石見にやってきました。そして着任早々「享保の大飢饉」に直面した彼は、苦しむ石見の民を救うため、米に代わる作物としてさつまいも栽培をこの地に導入しようと決心します。とはいえ、はるばる薩摩に使いを送って、持ち出しご法度の種芋を入手するだけでも当時は至難の業。さらに入手できた種芋も、石見では誰も栽培したことのない未知の作物です。すべてが手探りだったことでしょう。

「いも代官ミュージアム」の館長であり、長年古文書の研究にたずさわってこられた仲野義文さんにもお話を伺ってみました。

仲野さん
「石見は農地が少なく飢饉に弱い土地柄です。井戸平左衛門はそこをきちんと理解して、適切な農作物を導入することを政治的に判断してやったわけで、その手腕はやはりすごいなと思いますね。ただ、さつまいも栽培導入は、最初はさほど評価されていなかったようで、その後何度か飢饉があった中で、徐々にその有用性に対する認識が広まっていったようです」

すぐに評価はされなくても、次世代のためになると信じたことをやる。そんな平左衛門の挑戦のおかげで、さつまいも栽培はこの地に根付きました。今でもこの近辺の古民家の床下には、さつまいもを冬越しさせるための「芋釜」と呼ばれる貯蔵庫が残っています。

仲野さん
「井戸平左衛門を含め、さつまいも伝播に貢献した人を顕彰する神社や碑って各地にあるんですよ。他の作物ではあまりそういうことってないですよね。それぐらいさつまいもは日本人にとって重要だったということです」

料理人・小野寺拓郎を虜にした、蜜のようなさつまいもとは?

そして、芋代官さまの活躍から約280年経った今、全国から注目を集めているさつまいもがあります。それが大森町の隣町・飯南町のシルクスイート。他郷阿部家の料理人・小野寺拓郎は、このさつまいもを初めて味わった時のことをこんなふうに話します。

小野寺
「あれは4〜5年前だったかな、さつまいもを自然栽培で育てている方が飯南町にいらっしゃるということで、家族でりんご狩りに行くついでに訪ねて行ったんです。そこで出していただいた焼き芋を食べて、こんなにうまいさつまいもがあるんだ!って衝撃を受けましたね」

ねっとりとなめらかな食感で黄金色の蜜がたっぷり。このさつまいもを飯南町に導入したのは、かつてこの町の町長を務めたこともある本田哲三さんです。本田さんは60歳で町長を退任したあと、高齢者介護や障がい者支援など地域福祉の担い手として奮闘。障がい者の方々と農作業に取り組む中で、本田さんがこれぞと目をつけた作物が、さつまいもでした。

施設で畑を確保し、10年ほど前からいくつかの品種を育ててきましたが、その中で出来栄えがずば抜けてよかったのがシルクスイート。本田さんがこの品種と出会うきっかけは、2016年に起きた熊本大地震でした。

本田さん
「震源地の近くに西原村というところがありますが、うちはそこの農家さんから何度か芋苗をもらっていたんです。聞けば、被災して出荷するはずだったさつまいもが売れずに困っていると。それで私、トラックで現地に乗り込んで芋を買い取り、こっちに持って帰って販売してあげたんですわ。そのことがきっかけで、現地ではシルクスイートという品種が作られていることを勉強させてもらって、こちらでも試しに育ててみたら非常においしかったんですね」

目指すは「芋づる代官さま」。再びさつまいもで地域を元気に!

その後、本田さんたちのシルクスイートは、島根大学の研究により「バナナより甘い」ことが解明されるに至ります。食味がよいだけでなく循環型農業で育てている点も魅力。もともと地元にあった火山灰の土に、椎茸栽培で出る廃木のチップを混ぜて土壌を改良し、農薬や化学肥料不使用で育てているのです。

そしてこのシルクスイートが、焼き芋の材料として全国から注目を集める中、本田さんたちは2018年に地域ブランド「森の絹」を立ち上げることに。今では24名の農家さんが生産者協議会に名を連ねており、そこで収穫されるさつまいものうちほとんどは、本田さんが立ち上げた地域商社「なつかしの森」が買い取って販売しています。

本田さん
「今は社長を息子に任せて、私は芋部門の使用人です(笑)。私はね、この地に産業を興して、地域が豊かになる仕組みを作ることが最後の生きがいだと思ってます。芋代官さまにはなれんけど、芋づる代官ぐらいにはなりたいなあと思ってますわ(笑)」

そう言って笑う70歳の本田さん。最近では、この「森の絹」の栽培エリアを近隣地区にも広げ、収穫した芋を、銀山界隈の坑道で貯蔵熟成するというアイデアも形になり始めているそう。人と地域を思う心を、さつまいもに託して——。井戸平左衛門からつながる系譜が、今も生き続けているのを感じます。

阿部家料理人・小野寺拓のレシピ

「焼き芋をつくる時は、まず芋を20分ぐらい塩水に浸けてから焼くと、甘みが強く感じられておすすめです。塩水から上げた芋はアルミホイルで包んで焼くんですが、この時にできるだけピチッと隙間なく包んだ方がよりねっとり感が強く出ると思います。ストーブの上で転がしながら甘い匂いが漂うまで焼いても、100℃ぐらいの低温オーブンで2時間ぐらいじっくり焼いても、おいしくできますよ」

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