石見銀山 群言堂

第三話 新生活、家族のかたち|群馬県高山村 在る森のはなし 木暮咲季

山形の芸術大学を卒業してからの5年半、手仕事、小商などを生業に農的な暮らしをしていた。なんでも自分で作ってみないと気が済まず、ダッシュ村かなと思うほどあらゆるものを作った。

外食はほとんどしないしもちろん自販機やコンビニは使わない。スーパーでの買い物は月に2回豆乳とかお肉を買う程度だった。

ニワトコのリキュールを作ったけど全然美味しくなかった

第二話で綴ったように、ずいぶんと変化をして今は外食もするしスーパーで買い物もする。去年は10年ぶりに味噌も落ち葉堆肥も作らなかった。

ガチガチだった自分が剥がれ、つくりたい未来のカタチや大きさに気づいたからこそ暮らし方がずいぶん柔軟になったのだと思う。

余談だけど、内側のガチガチさは見た目にも出るらしくて、この頃弟につけられたあだ名「生乾きのミイラ」(弟にしかつけられない酷すぎるあだ名だけどウケがいいので気に入っている)が自他ともに納得の見た目だったのだけど、変化と共に顔がふっくらして柔らかい印象になった。もう「生乾きのミイラ」とは呼ばれまい。



新生活アパート暮らし

引っ越ししたての新居

村から「移住・定住コーディネーター」という仕事を請けているのだが、あろうことか、この村には賃貸物件がほぼない。

結婚したので旦那さんと一緒に暮らすことにしたのだけど、例にもれなく私たちも住むところがなく、隣町に仮住まいのアパートを借りた。

「土から離れては生きられないのよ!」(天空の城ラピュタ)

みたいな性質なので、アパート暮らしはちょっとぎこちなさが残りながらも、自然の中にいなくても日々の暮らしの中でチューニングできるんだ!と発見した。



私にとって感覚や体調を整えるには畑作業やものづくりが合っていると思っていた。けれど、振り返れば自分のアイデンティティをそこに重ねてそれしか良しとしていなかった。それをしていなければ私っぽくない。と固定していた。

結婚祝いでいろんな人からお花をいただいたのがきっかけで部屋に切花を飾るようになった。この村に移住してからは両親と暮らしていたのでほとんどやらなかった家事をするようになった。

野菜を洗ったり切ったり料理すること、スーパーの青果コーナー、部屋のお花。日々の暮しの中で整うことに気づく。

何かをしなければ自分を整えられない、というのはちょっと不自然で、今やっていることの中にある自分の感覚と波長の合う粒子を拾えているのか、とそんなことに意識を向けた方がいいのかもしれない。

ちなみに…まるで都会のアパートに引っ越したかのように書いてしまったけれど、今暮らすアパートは四方を田んぼと畑に囲まれ、山々が見渡せる高台にあって、温泉や湧水スポットまで車で5分です。



共に生きるとは

在る森の腕相撲大会。奥にいるのは私そっくりだけど弟です。

旦那さんとは出会ってからちょうど1年が経った。

そもそも「結婚しよう」というのは私から伝えたのだけど、その時に恋愛感情はなかった。お付き合いもしていなかったし。

ただ、これからこの人と協力しあって生きていくんだろうな。一緒に暮らすんだろうな。と思っていたので、その一歩を踏み出したくて結婚を申し込んでみたのだ。

共に生きることを約束するってことは、より色んな側面が見えるし、時には言いづらいことも言うことになる。

それは嫌だからココを直してほしい、とかどちらかが我慢するとか、そういう一方的なものではなくて、相手が今より生きやすく、そしてステキになるようにと助け合い変化していく、そんな関わり合いだ。

共にいることでお互いがより輝く。そんな関係が「在る森のはなし」の在り方だし、だから結婚も同じことだった。そんな仲間や家族とずっと一緒にいられる私は最高に幸せものだと我ながら思う。



家族のかたち

婚姻届のためのフローチャート

籍はどこにいれるのか、苗字はどうするか、

お墓はあるのか、相続はするのか、兄弟と話はできているのか…

入籍にあたって、いろんな選択があってこんがらがったのでチャートを作った。

私、旦那さん、私の両親、旦那さんの両親、それと兄弟。

それぞれの選択とその想い、それと法律。

これを並べないと決められないと思い表にした。

これを作るためにはそれぞれの想いをまず聞くことになる。本音を把握しないと意味がないので、言葉の奥にある気持ちにも注目しながらチャートを作り、そしてそれを眺めながら2人でひとつひとつ決めていった。

いろんな家族のかたちがある。

ただのノロケ話にならないか心配だけれど、旦那さんはこんなことを言ってくれた。

「昔、占いであなたは最高のナンバーツーになれる素質があるって言われたんだけど、その時はなんでナンバーワンじゃねぇんだよって思った。でも今はさきちゃんの夢を実現するために力になりたい。俺は最高のナンバーツーになれる自信がある」

こんな人が世の中にいるとは思ってもみなかったので最初は受け取れなかった。

「そんなことがあるわけがない」と知らぬふりをして聞き流していた。(なんてヤツだ!)

2人の共通の思いは、高山村でこれから暮らしていくこと。そして一緒に在る森のはなしを作っていくこと。

法律的に言えば「籍」とは戦後家制度が廃止されて以来、住んでいる場所じゃなくてもいいし、日本であればどこでもいいというルールとなった。え?じゃなんなの?と突っ込みつつ、つまりコンセプトのようなものだろうと解釈して、籍は在る森の住所に置くことにした。

メンバーと記念撮影をするのだと思っていたらサプライズ結婚式だった日の一コマ

当時は「そんなことがあるわけない」と受け取れなかった旦那さんからの愛。あれから一つ一つ本音で向き合っているうちに、どんどん好きになっている。

「どんなさきちゃんでもいいよ」と私のペースに合わせて待ってくれる旦那さんはすごいと思う。

頑張らなくてもお互いの行動がお互いを成長させ輝く、豊かな関係。そんなパートナーシップをこれからも大切にしていくし、共に暮らした方が助け合えるのであればもしかしたら一緒に暮らすメンバーはもっと増えるかもしれない。

ちょうど今「在る森のはなし」はどう稼いでいくのか?を考えるために、メンバーそれぞれの人生計画を共有して、どうやったら協力しあえるかを考え始めている。

子育てはみんなでやる、この先、家や車、必要な道具はシェアすることもあるかも知れない。

この連載が終わるころ、その時にどんな会社になり、どんな家族になっているのか楽しみで仕方ない。

きっと、家族のかたちも会社のかたちも自由自在。


筆者プロフィール

木暮 咲季

こぐれ・さき

1987年群馬県生まれ。東北芸術工科大学卒業。山形・蔵王の麓にて10年間、農、教育、手仕事などの仕事をしながら半自給自足生活。2016年秋に群馬県の高山村に移住。現在は「カエルトープ」に暮らしながら「在る森のはなし」を立ち上げ&開拓中。その他、村づくり業務、移住・定住コーディネーターの委託をうけている。

群馬県高山村・移住と暮らしのサイト

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