石見銀山 群言堂

第五話 手工具と木工機械の関わり|オークヴィレッジの根のある仕事

第5話の今回は、制作の職人・澤岡による「道具」の話をお届けします。

幅広いモノ造りを行うオークヴィレッジでは、手工具はもちろん、機械もなくてはならない存在です。今回は、様々な道具の中でも「機械」に焦点を当てた、根のある仕事をご紹介します。


こんにちは。オークヴィレッジで生産管理を担当する澤岡と申します。

もともと職人をしていて、今はどちらかというと事務方ですが、現場に出ることも多く、木をキレイに削ることを身上にしております。

オークヴィレッジでは、家具や小物を作るにあたり、様々な機械を使用します。

私は手工具も機械も、同じく手の延長だと考えています。それらの得意なことと不得意なことを見極めて、適切な役割を与えることが重要だと思います。

中でも重要な役割を担う機械のひとつに「NCルーター(numerical control router)」が挙げられます。

NCルーターとは、一言でいうと、木を高精度に削る機械です。削る動きをあらかじめプログラミングし、それに沿って刃物が高速回転しながら自在に木を切削していきます。

刃物を製品の形に合わせて特注することも多いので、木材の知識だけでなく、プログラミングや刃物の知識も必要です。オークヴィレッジではこの機械を2台所有しており、「適材適所」ならぬ、「適機適所」で使用しています。

NCルーター
直径2㎜から10cm程度の刃が高速回転し、コンピューター制御によって1/1000㎜単位で縦・横・高さなどを自在に動かして木材を切削する。

家具職人が心を込めて、というイメージとは相反するものかも知れませんが、NCルーターも鉋(カンナ)や鑿(ノミ)と同様、木を知り、木をこよなく愛する者でなければその真価は発揮できません。

それでは、一体全体NCルーターの何が優れているのか。

複数ある工程を一つにまとめて納期短縮を図りたい。省力化を実現したい。複雑な造形を職人の経験に頼ることなく生み出したい…など、様々な理由がある中で、オークヴィレッジにおいては、「仕上がりの良さ」ということが比較的重要視されています。

NCルーターでの加工は、木工で敬遠される「逆目」(木の表面がむしれて小さな凹みができること)が出にくいため、美しさが求められる加工には大変役立ちます。

NCルーターを用いて玩具を切削する様子。

ただし、良いことばかりではありません。

NCルーターでの切削方法の場合、刃物に大きな負荷がかかるため、その切れ味には細心の注意が必要です。

熟練工ともなれば、削っている音を聞いただけで刃物の切れ味を確認することが出来ます。また、使い慣れた機械であれば、その刃物が一分間に何回転で回っているのかということも、音だけでおよそ判別がつくものです。

NCルーターと澤岡

しかし、その領域に達するためには、ある条件が必要不可欠であると思います。

それは、今まさにNCルーターの定盤に加工する材料を乗せ、スタートボタンを押そうとしている職人が、同じ材料を鉋なり鑿なりで削り、身をもってその硬さや性質を体験したことがあるか、ないかということです。

そして、それら手工具で削り上げた切削面の美麗さ・・・これが自分自身の絶対的な尺度として持ち合わせていなければ、残念ながらNCルーターといえどもその仕上がりは期待出来ません。

まあ、はっきり言えばボタン一つで動いてしまうコンピューター制御の機械であろうと、使う人によって、出来上がるものは良くも悪くもなるということです。どんな道具であろうと、それが「ひとの手の延長」であることに変わりはありません。

木工の教育を行っている学校の多くは、恐らく卒業してしまえば9割方使わないであろう手工具の教育に熱心です。

その現場を見て、「どうせ将来使いもしないものを教えったって時間の無駄だ」と一蹴するか、「木という素材を本当に理解するためには絶対に必要な過程なのだ」と捉えるかで、結果はずいぶんと違ってきそうな気がします。

鑿を使う澤岡

脱線するようですが、
「新人は朝一番に来てストーブに火を入れて、掃除をすべし」など、今日声高に吹聴すればブラック企業のそしりを受けそうな職人世界の常識も、何が目的なのかを考えてみれば、

「作業中もまわりをよく見て、他の職人、あるいは後工程の職人が気持ちよく作業ができるように振るまう」ことのできる職人になるための手段なのであって、

そういう事をむやみにはしょりすぎると、共同作業である木工の現場がおかしな事になるだけでなく、最終工程であるお客様への配慮や直接的に製品レベルの低下を招きます。

私自身、昔は後輩に技術を伝えることの方が多かったのですが、気が付いてみれば、やれ「片付けろ」とか、「ごみはすぐ捨てろ」といった類のことばかりうるさく言っています。

残念ながら、だらしなさは出来上がったものにも気持ちよく反映されるからです。

工房の風景

一方で、近年の木工はずいぶんと難しくなりました。

まず、NCルーターも含めて使う機械の種類が非常に多い。工房にある機械はざっと数えて30種類。プラス手工具。これらを全て使いこなせという訳ではありませんが、最低限安全面での知識は必携。

そしてそれらは「木」という素材を切断し、削り取り、磨くものが大半なのであって、やはり基本となる「どういう素材なのか」という理解がなければ、どこまでいっても上っ面の仕事しかできないと思います。

NCルーターを見る澤岡

NCルーターという機械は、基本的には言葉で説明すれば使えるものです。

ところが、鉋や鑿や鋸は言葉で説明もできるのですが、ある地点からは木に教えてもらうことの方が多くなる。

そこで気が付いたこと、感じたことは、機械加工であろうがNCルーターであろうが、生かせることは決して少なくないはずです。ですから、木工の基本はあくまでも人の手。ここがブレてはいけません。

ただ問題なのは、NCルーターを使いこなすために手工具を学ぶという図式が、私の感覚としては、いささか歪んで見えることです。本来であれば、そんなものは手工具の正常な使用目的ではなく、単なる副産物でしかないのですから。

それを払拭するために、手工具での付加価値とは何なのか。もしかしたら、NCルーターの側から見たら、大きなヒントが得られるかもしれない。

ずいぶん前から、そんな思惑をめぐらす日々が続いています。


【プロフィール】
オークヴィレッジは、木のおもちゃや家具、木造建築を手がける木工房です。1974年の創業以来、日本の森から木という恵みをもらい、飛騨高山の地で日本の伝統技術を駆使したモノ造りを行いながら、森林保全活動や林業の6次産業化にも取り組んでいます。

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