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梶山正「京都大原で暮らす」|第十六話 ミネさんのスペイン料理とピアノを楽しむ

我が家のピアノを演奏するミネさん

クリスマスの数日前、川上ミネさんがいつものようにおいしいスペインの食材とワインを持って遊びに来た。

ミネさんはマドリッドと京都を拠点に活動するピアニストで、半年ごとに日本に戻ってくる。

ベニシアが出演しているNHKテレビ番組「猫のしっぽカエルの手」や映画「ベニシアさんの四季の庭」で流れる音楽は、彼女が作って演奏したものだ。

清水寺舞台でミネさんは、毎年コンサートを開いている

今夜は、ベニシアが46年前に初めて日本に来たての頃、いろいろと面倒を見てくれたアメリカ人のチャールズさんも来た。

京都にあるニューヨークスタイルのチーズケーキの店、パパジョンズ・カフェのオーナーである。

ミネさんが持ってきてくれた白ワインを飲みながら、彼はスマホでそれがどんなワインかこっそり調べている。

「梶山さん、このスペインのワインは4つ星で7800円もするぞ…」と彼は僕にささやいた。僕はスーパーで買っておいた2本の赤ワインを思わずこっそりと隠した。780円だったからである。

僕たちの様子を見て「何を話しているの?」とミネさん。

「ごめんなさい。気になるワインはついつい調べたくなるもんで…」とチャールズさんは頭をかいている。スミコさんはミネさんと一緒に料理を作っている。料理好きの女性がいると心強い。

今年は清水寺の改修工事のためコンサートは実現できなかった

「私は飲まないからいいの」とベニシア。彼女はここ1年ぐらい食欲が落ちている。年とともに目が悪くなり、料理を作りにくくなったようだ。

一方、チャールズさんはこれから料理の本を作ってみようと張り切っている。これまで、ベニシアがハーブ料理の本などを作っているので、何かいいアイディアがないか考えているようだ。

スペインの手料理がテーブルに並んだ。イベリコ豚の生ハム、ミネさんの友人が作った生湯葉とパンは、オリーブオイルと塩でスペイン風にいただく。

5センチも厚みがあるスパニッシュオムレツや鴨肉の燻製などなど。ワイワイ食べて料理が少なくなった頃にふと気付いた。料理の写真を撮っとけば良かった…とちょっと後悔。

我が家のダイニングキッチンでピアノを聴く

「ミネさん、ここのピアノを弾いてくれない?」とベニシア。大きなコンサートホールなどで演奏するプロに、それは遠慮した方がいいのではないかと僕は思ったが、ミネさんは笑顔でOK。

ところが、ピアノの蓋を開けてみると、ちょっと大変なことに。鍵盤がカビだらけ。数ヶ月間、誰もピアノを弾いていなかったからだ。

演奏にかかる前に、まず鍵盤の拭き掃除から始まった。彼女は著名なピアニストなのに、まず料理を作って、それからピアノ掃除もさせられて、ベニシア家でこんなに働かされるとは。

「大丈夫よ!ラテン系の国のコンサートでは共演のミュージシャンが来ないとか、まともな音が出るピアノがないとか、トラブルが日常茶飯事よ。そんなことも含めて、全てを楽しまないとね」。僕もラテン系の国が好きになりそうだ。

間近で聴くと、鍵盤を叩く指の動きも見えて楽しい

数年前まで、ベニシアはアイリッシュ音楽などのCDを一日中、家で鳴らすほどの音楽好きだったのに。そういえば最近はミネさんのピアノCDしか聴いてない。よほど生の音を聴きたかったのだろう。

「ドイツの音楽大学で真面目にクラッシック音楽を勉強したのに、中南米を旅行しているときに聴いた、リズミカルなラテンやジャズ風に弾く中南米アレンジのクラッシック音楽に衝撃を受けた」といった話などを交えて、ミネさんの演奏は続いた。生の音楽はほんとうにいいもんだ。

「梶山さん、ベニシアさんを大切にしてあげてよ。半年ぶりにここに来るから、私には解るのだけど、彼女は痩せたわよ」とミネさん。半年後もまた、我が家のピアノの前に座って、ベニシアを喜ばせてくれると嬉しいなあ。ワインでほろ酔いの僕たちの夜は続く。







筆者 梶山正プロフィール

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かじやま・ただし

1959年生まれ。京都大原在住の写真家、フォトライター。妻はイギリス出身のハーブ研究家、ベニシア・スタンリー・スミス。主に山岳や自然に関する記事を雑誌や書籍に発表している。著書に「ポケット図鑑日本アルプスの高山植物(家の光協会)」山と高原地図「京都北山」など。山岳雑誌「岳人」に好評連載中。

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