梶山正「京都大原で暮らす」|第十五話 自然との一体感を求めて山に登る

四国石鎚山の弥山山頂でくつろぐ、たくさんの登山者たち

10月上旬に四国の石鎚山へ紅葉を見に出かけた。天気がいいおかげで、山頂一帯を赤く染めるツツジ、ナナカマド、カエデなどの紅葉が素晴らしかった。

それだけでなく、たくさんの登山者の数にも驚かされた。国土の4分の3が山に被われた日本。そこに暮らす人々は山が好きなようだ。

僕は幼少の頃から虫取りが好きで、一人で近くの森や野原に出かけては虫たちを追っていた。

虫取りで山歩きをするようになった僕は、本格的な登山を志して高校山岳部に入った。

いちおうスポーツクラブなので登山競技会などにも出場しなければならなかったが、競技には興味を持てなかった。

石鎚山山頂へ続く一の鎖を登る。鎖場はここだけでなくいくつもある

僕が登山するわけは、山に行くと心と体が浄化されたように感じるので、それが自分にいいと思ったのだ。

週末に山へ行くと、月曜日からしばらくはエネルギーが満ちあふれた。一人で山にいると、森や川や雲や風と話ができた。

それらが自分と同じような存在に感じ、自然と一体になれる自分を知ることができた。

もしかして、仙人とか修行僧はこのような自然との一体感を重ねていくうちに、超能力を身につけるのでは?僕は仙人のようになりたいと思い、一人で山へ向かうようになった。

ところが20歳を過ぎると、山登りは仙人になるためのものではなくなった。

ロッククライミングや山スキーなどスポーツ的な遊びの要素を多く求めるようになったのだ。それらは一人でなく仲間と一緒に行った。

山好きの延長で山岳雑誌のカメラマンにもなった。山登りに楽しみを求め、以前のように精神性を求めなくなっていた時期だったのかもしれない。

役小角はまず葛城山{大阪と奈良県境の金剛山(右)と大和葛城山}で修行し、その後、多くの山々へ修行の場を移していった

*山岳宗教のスーパースター、役小角(えんのおづぬ)

山の取材などで日本アルプスばかりでなく西日本の低山なども行く機会が増えた。

各地の山を歩くうちに、あちこちで何度も同じ古人と僕は再会した。役小角(えんのおづぬ)である。

役小角(634~701年)とは、飛鳥時代の修行僧または呪術者で、鎌倉時代には修験道の開祖と言われるようになった人だ。

大昔、霊山は里から遙拝するものであったが、飛鳥時代から奈良時代には、霊山で自然の霊力を身につけようとする修行僧たちが現れた。役小角もその一人である。

日本各地の霊山に足を延ばすと、そこは役小角が開山した山と知り、その活動範囲の広さに驚かされる。晩年には「人々を言葉で惑わす人物」とされて伊豆島に流罪となったが、毎晩のように彼は海を歩いて富士山に登ったとも言われている。

役小角が開いた葛城修験道根本道場である金剛山転法輪寺。金剛山頂近くにある

役小角のように山で修業して特別な能力を身につけ、里に下りて加持祈祷や病気治療などで人々を助ける信仰形態は、鎌倉時代になると修験道に体系化していく。

江戸時代になると一般庶民の間にも霊山への信仰登拝が広がった。富士山、立山、白山、御嶽山、大山、英彦山などの霊山に多くの人々が登った。石鎚山もそんな霊山のひとつである。

ところが、千年以上続いた山岳登拝の歴史と文化は突然崩壊した。明治元年に明治新政府は神仏分離令を発した。

その目的は神道国教化のためで、仏教排斥を意図するものではなかったが、神仏習合の考えをベースにしている修験道や他の山岳宗教は大打撃を受けたという。

修験道根本道場がある紀伊半島大峰山脈の山上ヶ岳に祀られた役小角像。山上ヶ岳は国内で数少ない女人禁制の山である

現在、日本の登山愛好家の数は少なくないはずだ。彼らは何を求めて山に登っているのだろう?レクレーションやスポーツのためと単純には言い切れないところがあるように僕は思える。

石鎚山で、落ちたら死ぬような岩壁に付けられた鎖に、多くの老若男女の登山者たちが必死にしがみついていた。

「なんで、彼らは、そんなにがんばるのだろう?何が目的なのだろう?」と考えさせられた1日であった。「山がそこにあるから」…?

きっと山で自然との一体感を感じているのだ。充実した生き方を求めるために山に登るのだろう。







筆者 梶山正プロフィール

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かじやま・ただし

1959年生まれ。京都大原在住の写真家、フォトライター。妻はイギリス出身のハーブ研究家、ベニシア・スタンリー・スミス。主に山岳や自然に関する記事を雑誌や書籍に発表している。著書に「ポケット図鑑日本アルプスの高山植物(家の光協会)」山と高原地図「京都北山」など。山岳雑誌「岳人」に好評連載中。

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