石見銀山 群言堂

第五話 タキビバ誕生譚(1)石団開拓編|木方彩乃さんの根のある暮らし

3年前の冬だったと思う。キャンプ場の隣に「焚火場」なる新しい事業地をつくる話が浮上した。「芋掘炬燵も作っていいよ」と言われ、私ははりきって絵を描いた。

当初の計画では、焚火のできるサイトを20箇所ほど用意し、それぞれ場貸しするというビジネスモデルだった。BBQ需要も見込んでいた。ところが社長は「キャンプ場を作りたいわけじゃないんデス!」と一蹴した。

上)最初に描いた絵…区画がひしめき合っている
下)次に書いた絵…実際のレイアウトに近付いた

Sweet Grassの9割を占めるファミリー層ではなく、まったく異なるグループをターゲットにするという。社長はそれを「目的をもった個の集団」と定めた。わかりやすく言うと、社員研修とか講演会とか婚活パーティである。私は大学時代に勤しんでいた演劇部を思い浮かべた。合宿をして、お芝居の公演までできる場所がいいな。

合宿といえば、キャンプファイヤーだ!大きな火をみんなで囲める、象徴的な空間がほしい。まあるい形から「炎舞台」と名づけた。円形のステージとしても使えて、小さな焚火もできて、炉端にぐるっと腰掛けられるようにしたい。バリ島で感動した焚火影絵や、セイロン島で興奮したファイヤーダンスをやりたい。そんなことを考えながら、絵を描いた。

舞台の石材が、とても重要だった。できれば地産の天然石で、色味のきれいなものがいい。プリミティブでありながら、洗練されているような。

鉄平石(てっぺいせき)なるものが、浅間の南麓で採れると聞いて飛んで行った。石屋さんに猪突すると、特別に採石場まで案内してくれた。積み上げられた巨石が夕陽に照らされ、遺跡のように佇んでいる。こんな所に洞窟を掘って暮らせたら、どんなに素敵だろう。

採石場

私は、幼い頃から石コロが好きだった。ポケットいっぱいに拾っては、水に濡らして愛でた。お気に入りの小石やビーチグラスに針金を巻いて、ガーランドのように部屋に飾っていたっけ。大谷石の採掘現場も大好きで、3 回も行った。

初めて浅間山に登ったとき、生命の気配すらない荒涼とした稜線に、ド派手な岩が立ちならんでいて痺れた。火口に棲むという伝説の鬼が、石化した姿に見えた。私のスマホの壁紙は、その時に撮影した岩肌である。

鉱山もまた、石好きのパラダイスだ。温泉郷として知られる万座周辺には、硫黄鉱山の跡地が点在している。ガスで変色した砂礫が巨大な山となり、色の砂漠(ゴアプ!)を形成していた。その中に、高炉で使われていた耐火煉瓦が眠っている。その複雑な色彩は、高熱と歳月によって魔法を帯びたように美しい。すっかり魅せられた私は「県境なき石団」を結成し、探索の旅にでた。

いつしか、人工物と自然の造形物の違いを考えるようになった。風化した煉瓦は、その狭間にあるように思えた。私たちのタキビバも、そんな場所になるだろうか?

1年後の春。大地の凍みがぬけると、地鎮祭を行った。地を鎮めることは心を鎮めることだと知るが、胸は高鳴る。いよいよ、工事がはじまるのだ。


筆者プロフィール

木方 彩乃

きほう・あやの

1978年 埼玉生まれ。多摩美術大学・環境デザイン科卒。在学中から食物を食べる空間「食宇空間(くうくうかん)」の制作をはじめる。2015年より群馬県北軽井沢にある「有限会社きたもっく」に勤務。山間の小さな会社だが、日本一と称されるキャンプ場スウィートグラスを営んでいる。山を起点とした循環型事業を展開。

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