石見銀山 群言堂

夫にあてにされない喜び|vol. 5

夫に当てにされない喜び

 夫が住んでいるのは、私たちがもともと住んでいた母屋の離れです。今、母屋には、三女夫婦と5人の孫が住んでいます。
 孫たちに会いに母屋には行きますが、夫の住まいには、ほとんど入りません。夫も私の家にめったに来ないですね。そこに取り決めはありません。

 「大吉さんのことが心配ではないんですか」と聞かれることもありましたが、心配はありませんでした。というより、やりたいことがいっぱいで心配している暇がなかった(笑)。
 私は命に関わること以外、もうどうでもいいと思っていて。関わったらきりがありません。よく会社で社員さんから「会長のセーター、虫が食って穴があいていますよ」なんて言われるんですけど、「つくろっといてあげてよ」って頼んでしまいます。私はどちらかというと、関わると徹底的にやるほうなので、やらないならもう一切やらない。
 私でなくても、上手な人にやってもらえばいいじゃないのって。中途半端にやるよりよっぽどいいと思うんです。私は私がやるべきことをやればいいんじゃないのって、そういう気持ちです。

 そうすると、大吉さんも私を当てにしなくなります。
以前は自分でできることも、それをとってくれとか、あれを買ってきてくれとか、何かと私を当てにして頼っていたんです。

 仕事上でも、彼が社員さんに直接言えばすむことも、私を通して「あの人にこう言っておいてくれ」とか「これをやっておくように伝えてくれ」とか。いっぱい振ってきていた。私に頼むのが習慣になっていたんですよね。

 でも私が「自分でやったら」と言うようになったら、最近は自分で気がついてやろうとするようになりましたね。すごい成長ですよ。

 仕事の重要なところで、当てにされるのはすごくうれしいけれど、小間使いのように使われるのは、ちょっとイヤ。
 このあたりは、別居生活できれいに整理されてきましたね。

互いの成長も喜びに

大吉さんいわく……
洗濯だけは、いまだに苦手

 別居してよかったことは、やはりお互いの自立ですね。彼女はひとりのときは、本を読んだり、映画を見たり、よく勉強しているんですよ。それを知っているから、下手に行くと怒られるかなと思って、行かないようにしています。つい先日、寝室にベッドを入れるからというので、手伝いに行きましたが、それが初めてだったかな。

 実際に別居を始めても、特に困ることはなく、料理や掃除など家事は一通り自分でやっています。スーパーに買い物に行くのも楽しいし、家電を選ぶのも楽しいですから、むしろ、なんでもかんでも挑戦してやってみたいですね。

 ただ別居して20年近く経っても、いまだに苦手なのが洗濯です。
 洗濯機に汚れた衣類と洗剤を入れて、スイッチを押すところまではできるんです。でも団子状態であがったものを、ひとつひとつ取り出して、いちいち干すという行為が、自分の中で非効率というか、納得いかないというか……(笑)。
 そこは、母屋に住んでいる娘に頼っていますね。乾いた洗濯物はきれいにたたんで、私の部屋の前に置いてくれています。

 セーターに穴があいたり、ボタンがとれたり、アパレル会社なので、最近は社員さんに「ちょっと悪いけどやっておいてもらえるかな」とお願いして、カバーしてもらうこともあります。

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