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未来への一票は、捨てることまで考えて買うこと【小松﨑拓郎】|三浦編集室ゲストコーナー

あなたにとって、未来への投票とはどんなことだろうか。

これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」の取材で、2016年に大森町を訪ねた。取材時に登美さんから伺った、日々積み重ねる一つひとつの選択が未来への投票である、という言葉が心に響いたことを今でも鮮明に覚えている。

その後2018年から2年半ドイツで暮らしているうちに、未来への投票を考えるヒントが数多くあったように思う。例えばそれは、過剰なパッケージの製品を買わないこと、詰め替えできるものを購入すること。

Original Unverpackt」は、ベルリンのクロイツベルク地区にある世界初の包装を使わないスーパーマーケット。食材は詰め替え容器にはかりいれて購入する。

類例のsauberkastenは、掃除用品をつくるための素材とレシピを提供してくれる掃除キット。日用品としてパッケージのごみがでやすく、見た目もごちゃっとしがちな掃除用品を代替えする製品だ。たった6種類の素材から10種類もの掃除用洗剤をつくることができることに驚いたし、必要な時に必要な分だけ洗剤を用意できるのも便利だった。どちらの事例もパッケージのごみを減らすデザインだ。

sauberkastenで使用する素材

ごみが生まれづらい生活文化が根付いていることにも刺激を受けた。

ベルリン市民にとって道端は宝庫である。誕生日の前日に妻と街を散歩していたら、二人のお兄さんがアパートの前の道端にテーブルを近所の住民に譲るために置こうとしていた。フリードリヒスハイン地区に引っ越したばかりの僕たちは、迷わずそのテーブルを引き取り、誕生日プレゼントとした。ベルリン市民の根っこには、捨てるならば譲るという精神が根付いているように思う。

身の回りのモノが環境への負荷の少ない素材で作られていることも未来への一票を考えるうえでヒントになった。毎日5トンの食料廃棄がでるレストランの課題を解決しようとするゼロ・ウェイストのヴィーガンレストラン「FREA」を経営するデイビッドが勧めてくれたのは、竹製の歯ブラシ。

日常使いするため交換頻度の高い歯ブラシは、プラスチック製の場合、廃棄に時間とエネルギーがかかりすぎる。プラスチックに比べて竹は土に還すことが容易なので、ドイツのビオスーパーでは必ずと言っていいほど竹製の歯ブラシが取り扱われている。

スポンジを代替えする日用品としても見直されているレデッカー社のディッシュブラシもまた木製であり、使い終えたブラシが土に還るように配慮された日用品と言える。

今回お話した事例に共通するのは「捨てることのデザイン」だ。

僕たちが日々当たり前のように受け取っている豊かさの源泉は限りある資源。それを使い過ぎない消費体験をした今は、モノを使うデザインだけではなく、モノを捨てるまでのデザインが必要なのだと考えている。日々の暮らしに置き換えるならば、捨てることまで考えて買うことが未来への一票ではないだろうか。

sauberkasten紹介記事(小松﨑さん撮影のムービーあり)


筆者プロフィール

小松﨑拓郎(こまつざきたくろう)

1991年茨城県出身。フリーランスの編集者・フォト/ビデオグラファー。ウェブメディア『灯台もと暮らし』編集長。企業や自治体のブランディング・PRに携わる。2018年に渡独し、2021年に帰国後は循環型の自然派生活を夫婦でめざし奮闘中。

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