石見銀山 群言堂

第五話 竹から物語1|岸田万穂さんの根のある暮らし

私が丹波篠山市で地域にどっぷりと関わるようになったのは地域おこし協力隊に就任してからでした。

ご縁あって担当になった地区は丹波篠山市の中でもいわゆる過疎高齢化が進み、定住促進重点地域になっている福住という地区でした。

福住は東の峠を超えると京都の南丹市、南の峠を超えると大阪の能勢町で、三府県の境に位置する集落です。

かつては交通の要衝、また京都からの玄関口にある宿場町として栄えており、今も古い街並みが数多く残されていて2012年には伝統的建造物群保存地区にもなっています。

そんな福住地区で私のスキルを生かして取り組んで欲しいと言われた課題が「廃校の跡地活用」と「放置竹林」でした。

今回はこの放置竹林の話をしたいと思っています。

竹は少し前まで暮らしに欠かせない貴重な資源でした。木材より加工がしやすく成長も早いので、畑の杭や柵、竿、土壁の中の竹木舞、ざる、かご、竹炭、食用としてのタケノコ。

今は建築様式も変わり、素材としても金属やプラスチックに取って代られ使われなくなってしまった竹は、その成長の速さと地下茎で増える生命力の強さから繁茂してしまい、各地で厄介者として扱われるようになってしまいました。

実際福住でも放置竹林が獣害柵を壊してしまったり、川に倒れ込んでしまったり、他の植生を圧迫して荒れた暗い森を作ってしまっていました。

この竹林を整備するには相当な数の竹を使う何かをしなければならないな…と最初に取り組んだのがBamboo Green Houseという農業用ハウスの建設でした。

設計は京都大学の小林先生という方なのですが、その小林先生のゼミ生や地域の方々のお手伝い・協力のもと、2017年4月に完成しました。

このハウスの良いところは、シンプルで分かりやすい構造で、伐る、割る、のせる、合わせる、くくる、と特殊な技術なしでも建設できるところです。

全国各地で取り組まれていて、現存している1番古い物は5年経っており、耐久性は更新中です。

たとえ老朽化してきても、また竹林から伐採してくれば山と暮らしの循環する仕組みになる点が非常に良いなと思い、活動に賛同させて頂いています。

篠山にハウスを建設した後、取材やお問い合わせも増えてきて、その後ホームページやマニュアル本の作成も協力させて頂きました。

2019年には篠山で現物の見学会、建て方の講習のワークショップ、全国の実践者たちと作成時のノウハウの共有や、今後の課題などをパネルディスカッションで議論するイベントを開催したところ、北は関東、南は九州まで、コアなイベントで大々的に宣伝していないにも関わらず、あっという間に定員40名の参加者が集まり、また注目が集まってきているように感じています。

このBamboo Green houseの建設がきっかけで得たものは大きかったと思っています。

まずは全国で竹に関わる活動をしている色んな方とのご縁ができたこと、竹の加工や生態についての経験的知識がかなり増えたこと、そして私に向けられる地域の視線がガラッと変わった気がしています。

たぶん突然県外から移住してきた学生あがりの若者に、この子は何をしたいんだろう?何ができるんだろう?(本当にできるの?)という目が向けられていたと思うのですが、有言実行したこと、目に見えやすい成果物が建ったこと、地域の一部の人ではありますが共同作業をしたことで受け入れてもらえる大きなきっかけになったように感じています。

そしてこのきっかけからまた面白いプロジェクトが始まるのでした。(次回へつづく)


筆者プロフィール

岸田 万穂

きしだ・まほ

1991年神奈川県生まれ。大学では間伐サークルと旅と長唄に明け暮れる。卒業後岐阜県立森林文化アカデミーに進学し木工を専攻。家具作りを学ぶため宇納正幸氏に師事。丹波篠山市地域おこし協力隊として3年間放置竹林の問題、廃校活用のNPO法人立ち上げに取り組む。現在は木工とNPO法人の理事と二足の草鞋。

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