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そのひと手間が愛おしい。お菓子作りに欠かせない相棒のような計量器【私のめづる道具#2】

暮らしを大切にする「あの人」に、お気に入りのひとしなを聞く連載「私のめづる道具」。

第一回に続き、第二回に石見銀山生活文化研究所に勤める渡部宏美が選んだのは、生まれた時からそばにあったアナログクッキングスケール。

存在自体が暮らしのあたたかみを醸し出してくれている。そんなひとしながある日常を生きたいなと、懐かしいそのフォルムを見ながら私(伊佐)は思っていました。

(以下、語り手:渡部宏美)

今となっては、誰が買ったのかもわからない。

小さい頃からお菓子作りが大好きで、特に粉もの。ホットケーキやマフィンを焼くたびに計量器を使っていました。当たり前……ですかね(笑)。

これは、母が買ったのか、それとも祖母が買ったのかすらわからない。昔から実家にあったものを、何も考えずに使っていて。

表示は5グラム刻み。1グラムなど細かい重さは量れないから、そんな時は大さじや小さじが大活躍。

小学生の頃、家庭科の教科書の裏に「小麦粉なら小さじ一杯で3グラム」「◎なら大さじ一杯で◎グラム」と書いてある、こんな比重の一覧表を見つけてね。

KAK_1862.JPG


それ以来、パンを焼く時に必要なベーキングパウダーなどの細かい分量は大さじと小さじで。それ以外はこの計量器を使って量るというスタイルが、私の自然な習慣になりました。

「ぽんっ」を手間に感じない。重さを量る時間を含めて「私の時間」。

大学生になって、卒業して就職して……。暮らす場所や環境が変わっても、引っ越すたびに荷物に入れて持ち運んできたアナログクッキングスケール。

「この子、もしかしておばあちゃんなのかな?」とたまに愛しい気持ちになるのですが、なぜか粉ものの感知が正確じゃない。

パンを焼くために小麦粉を100グラム量ろうとした場合、乗せ始めは100グラムって表示されるのに、一度このお皿部分に触れて「ぽんっ」と弾くと、80グラムと正しい表示に変わる。

どうしてだか粉ものは20グラム、最初は多く感知してしまうみたい(笑)。時間差とひと手間を経て、やっと本当の重さが量れるようになる。

不便に聞こえるかもしれないけれど、私はずっと使ってきているからもう慣れっこなんです。粉を置いて、「ぽんっ」っと弾く。この一連の動作が、すでに私のお菓子作りの行程に組み込まれているような。

アナログクッキングスケールが、「これからお菓子作りをはじめるんだよ」という私の気持ちのスイッチなのだと思います。

これからもずっと、使えなくなるまで一緒にいたい。

暮らしはどんどん便利になっているから、デジダルのクッキングスケールが手頃な値段で購入できることも、もちろん知っています。

じつは一度、結婚式の引出物のカタログギフトでデジタルクッキングスケールを選んだことがあるんです。

……でも、届かなかったんです。理由は未だにわからない。書類に不備があったのかもしれないし、郵送のミスかもしれない。申し込みハガキを出した時にほかの書類は済んだものとして捨ててしまったから、真相はわかりません。

とにかく私はこれを使い続けるんだなって、その時に思ったのを覚えています。

最近は、アナログクッキングスケールを見かける機会すらありません。このヤマトのアナログクッキングスケールも、同じものを買おうと思っても、もう作っていないだろうからきっと買えない。

「がんばってね」と語りかけながら使うはかり。けれど時折、もしかしたら応援されているのは私の方なのかもしれないなって思います。

昔も今も、変わらず私のそばでお菓子作りという大切な癒やしの時間を助けてくれる、相棒のような存在です。

■紹介した道具について

・ヤマトのアナログクッキングスケール

■紹介してくれた人

渡部宏美(わたなべ ひろみ)

Gungendo Laboratoryブランド販促担当。島根県出身。

求人サイト「日本仕事百貨」を見て応募し、2015年入社。好きなことは美術館に行くことと、美味しいものを食べること。大森での日々の出来事、洋服のことなどを自分の言葉でお伝えできるよう奮闘中。

伊佐 知美
1986年、新潟県出身。「登美」ブランドで起用されている「マンガン絣」の産地・見附市が実家。これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』編集長・フォトグラファーとして、日本全国、世界中を旅しながら取材・執筆活動をしている。著書に『移住女子』(新潮社)。

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