豊かな時間の過ごし方を教えてくれる「金継ぎセット」【私のめづる道具#3】

暮らしを大切にする「あの人」に、お気に入りのひとしなを聞く連載「私のめづる道具」。

第3回目の今回は、石見銀山生活文化研究所の店舗・gungendo COREDO室町店に勤める須釜奈津美の「金継ぎセット」です。

■金継ぎとは:割れや欠け、ヒビなどの陶磁器の破損部分を漆によって接着し、金などの金属粉で装飾して仕上げる修復技法。金繕い(きんつくろい)とも呼ばれる。

(以下、語り手:須釜 奈津美)

割れてしまった、大切なマグカップ

すこし、昔話からはじめます。私には、大切なマグカップがありました。ひとから贈り物でいただいたもの。

でもある日、不注意から割ってしまって。 割れた際の音にもびっくりしましたし、「もう元には戻らないのだ」ということに、自分でも驚くほどの悲しみを覚えました。とにかくひとりで家で泣いて、泣いて……。

当時は「金継ぎ」という修復方法があることを知りませんでした。でも、どうしてか捨てることができなくて、破片も含めて、割れたマグカップを棚の奥底にしまっておいたんです。

「金継ぎ」との出会い

その後、金継ぎを知ったのは偶然でした。誰かから聞いたとか、記事を読んだとか、そんな感じだったと思います。

金継ぎは使う道具によって数種類に分かれるようでしたが、私はせっかくなら昔から伝わる正統派の「本漆」を使った金継ぎ手法で、大切なマグカップを直したいと考えました。

でも、本漆の金継ぎワークショップや教室はすごく人気。ぴったりくる先生や日程を探すこと約1年(笑)。

「楽しくうるしと。」をコンセプトに、漆を身近に感じられる場をつくる女性2人組ユニット「うるしさん」をネットで見つけ、半年間のワークショップに参加することに決めたのは、今から2年前の2015年のことです。

割れた欠片と静かに向き合う、愛しい時間

本漆にエタノールを混ぜて、漆の接着剤を作り、ゆっくりとマグカップに塗っていく。数日乾かして、今度は本漆に小麦粉を混ぜて、割れたマグカップをていねいに継いでいくーー。

乾かすために2週間。余分な漆をカリカリ、と先の細い竹串などで削って、かけらがあれば漆で埋めて、また乾かして、待って……。

細かい作業、なんだと思います。でも私はその「向き合う時間」がすごく好きで。 はじめは「ただマグカップが直したい」という気持ちでした。けれど、どんどん金継ぎの魅力にはまってしまって。

ワークショップが終わってからも、講師の方から道具セットを購入して、暇を見つけては金継ぎをするようになりました。

もちろん、直したマグカップには今でもものすごく愛着を持っていて、毎日自宅でコーヒーを飲んでいます。

手仕事を愛する祖父の面影を感じながら

考えてみれば、こまごました手仕事や、古いものは昔から好きでした。祖父は元々大工の棟梁していて、身の回りのものは大抵自分で作っていましたし、私が育った福島の実家も、祖父が中心となって仲間と共に建てた家で。そんな祖父を尊敬していました。

この環境で育った影響も、あるのかもしれません。美術館やアートが好きで、群言堂の「復古創新」という考え方も商品も好き。休日はよく古道具屋・古本屋へ足を運びます。

新しい本はなぜか買えなくて、どうしても新刊を買わなければいけないときは、折ったり、ごしごししたりして、「ちょっと手に馴染む感」を出してから読み始めるほど(笑)。

だから「金継ぎ」に出会えたのはとてもラッキー。中には漆でかぶれてしまう人もいるそうですが、幸い私はかぶれず、金継ぎを楽しめる体質のようです。

最近では自分の割れ物では間に合わず、友人が割ったものや職場で割れてしまったものを預かっては、時折直したりもしています。

今の世の中には「新しい商品」が本当に多いけれど、ものを捨てて、新しいものを買うだけでなく、「古いものを直して使う」という選択肢をもっとみんなが魅力的にとらえてくれるといいなぁと思います。

専門の人に直してもらうのもいいですし、最近は通販でも簡単に金継ぎセットが買えますから、自分で挑戦するのもおすすめです。

金継ぎの周辺に流れる、静かで穏やかな時間はとても愛しい。「金継ぎセット」は、いまの私の暮らしに欠かせない大切な道具です。

この道具の持ち主

須釜奈津美

たまたまりげんどうを訪れたことで群言堂を知り、その考えにとても感動。その後「日本仕事百貨」に求人が出ているのを見て応募。2014年入社。
好きなことは旅をすること。旅先でお祭りや伝統芸能に触れるのも楽しみ。ひまができれば古い町並み、懐かしい風景を探して日本全国を旅している。

須釜奈津美のもう一つの「めづる道具」
松野屋の竹製湯かごは記事はこちら

ライター 伊佐 知美
1986年、新潟県出身。「登美」ブランドで起用されている「マンガン絣」の産地・見附市が実家。これからの暮らしを考えるウェブメディア『灯台もと暮らし』編集長・フォトグラファーとして、日本全国、世界中を旅しながら取材・執筆活動をしている。著書に『移住女子』(新潮社)。

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