石見銀山 群言堂

第十二話 「根」のはなし|オークヴィレッジの根のある仕事

「100年かかって育った木は100年使えるものに」

「お椀から建物まで」

「子ども一人、ドングリ一粒」

深くしっかりとした「根」のように、オークヴィレッジを支え続ける大切な言葉です。

私たちオークヴィレッジの社員は、この3つの理念をそれぞれの立場や状況に応じて解釈し、迷ったときや困ったときにはこの理念に立ち返りながら、日々仕事をしています。

第12回 最終話の今回は、これまでも何度か触れてきたこの3つの理念を通して、オークヴィレッジの「根」についてお届けします。


1974年に高山市郊外の農家の納屋で誕生したオークヴィレッジは、「木」という再生可能な資源によるモノ造りを本格的にするために、5人の創業メンバーが1976年に現在の場所へ移住しました。

一面ススキ野原だったこの場所で、メンバーは皆でススキを刈ることから始め、谷から水を引き、土地を平らにして工房や住宅を建てました。そして田畑を耕し、鶏や羊を飼い、漆や果樹の木を植えていったのです。

現在、本社と家具工房として使用している建物は創業の頃に建てた工房で、窓ガラスと窓枠は廃校になった学校からもらってきたものなのだとか。

田植えをする様子

オークヴィレッジ本社外観

単に自給自足の暮らしをするだけならば、木でモノを造って売る必要はありません。

5人の若者が高山に移ってモノ造りを始めようとした背景には、お金を稼ぐことはもちろん、自分たちの考えに沿ったモノ造りをすることによって、関わる人の暮らしや社会を豊かにしたいという強い想いが込められています。

創業メンバーの5人

やりたいことはいっぱいあるけれど、初めからすべてを始めることはできない。そこで、まず目標を明確にしようと話し合ったのです。

一つ目は、「お椀から建物まで」
最初は注文家具からスタートするけれど、そこで終わるのではなく、建物まで造る工房になるという決意表明でした。

二つ目は、「100年かかって育った木は100年使えるものに」
森の恵みである「木」への敬意が深く込められています。

三つ目は、「子ども一人、どんぐり一粒」
”子ども”とは自分たちの作品のことでもあり、作品を一つ造ったら木を一本植えることを習慣にしました。
大量生産・大量消費の社会はいつまでも続かない。持続可能な循環型社会をつくることの大切さをまず自分たちが実践しよう。

そうした決意を込めて3つの理念は生まれました。

オークヴィレッジのモノ造りは手間と時間がかかります。効率や利益よりも大切なものを追究しているからです。

日本に暮らす私たちは、日本固有の気候風土を背景とした豊かな植生の森に恵まれ、森とともに生きてきた民族です。

オークヴィレッジの建物や家具、小物には、そこに暮らす人や風土、素材、文化…あらゆるモノやコトを活かすことで、森と人、暮らしをつなぎ、この先の未来に繋げていきたいという想いが込められています。

その想いは錆びることなく今も守り続けられています。そしてこれからも、人の暮らしや社会に向けて「想い」を大切にしながら、時代に合わせて変化し続けられる集団でありたいと願っています。

森と人を繋ぐ椅子「Mori:toチェア」

オークヴィレッジのモノ造りが体感できる青山店

あとがき

「オークヴィレッジの根のある仕事」全12回を担当してきました、オークヴィレッジの新井です。

始めに、執筆・編集の経験が初めての私にご丁寧にご対応いただいた三浦様をはじめ、群言堂の方々に感謝申し上げます。

木からモノを生み出し、人の手に渡るまではもちろん、畑での作物栽培、敷地内の森林整備、子どもたちとの植樹祭…と、さまざまな仕事、取組みを行うオークヴィレッジでは、本連載でも分かる通り、さまざまな人がいて(本当にさまざま!)、それぞれが思い思いに仕事をしています。

それでもバラバラになることなく木のモノ造りを続けているのは、「根」の部分で通ずる想いを持っているからなのではないかなと思います。

あらゆる物事に思いを馳せ、モノ造りを通じて自分たちの価値を届けたいという姿勢は、本連載で改めて気づいたオークヴィレッジの価値であると感じました。

会員向けワークショップに参加している様子

私自身、日頃「豊かさ」について考えることが多く、モノを造る、使うことにおいての豊かさには、敬意と気遣いが大切だと感じています。

入社して2年、オークヴィレッジで仕事をしていると、よくそうした敬意や気遣いを感じることがあります。

木を余すところなく使う、永く使えるモノ造りを目指す、日本の木を使う、植樹や森の手入れをする…といった木への敬意とできる限りの気遣い、人が触った時の触り心地の良さを考えてモノを造る、仕上げの際はささくれがないように細かくチェックする、赤ちゃんが手にする玩具は無塗装で仕上げる…といった、使う人への敬意と気遣い。

オークヴィレッジのモノ造りには、理念のうえに敬意と気遣いを持って仕事をする「人」がいてこそ、成り立つ価値がたくさんあります。

どこかで目にする機会がありましたら、是非、オークヴィレッジの「人」にも思いを馳せて手に取っていただけたら嬉しいです。

【プロフィール】
オークヴィレッジは、木のおもちゃや家具、木造建築を手がける木工房です。1974年の創業以来、日本の森から木という恵みをもらい、飛騨高山の地で日本の伝統技術を駆使したモノ造りを行いながら、森林保全活動や林業の6次産業化にも取り組んでいます。

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