石見銀山 群言堂

これからの豊かさのものさし

ゆっくり果実が熟れていく秋になりました。

色濃く熟した果実の中には、春の芽吹きに始まり、梅雨の長雨、夏の日差しと、いろんなことがあったこれまでの一日一日の重みが、ぎゅっと詰まっているかのよう。
私たちの中にも同様に、初めて味わう経験や思いが降り積もった数か月でした。
そこで得た学びや気づきも、私たちの内側にそれぞれの形で実り、熟していくのでしょう。

自分と向き合う時間が増え、自分の奥底に隠れていた一面を発見したという方も多いでしょう。
自分が何を大切にし、何を心地よいと思うのか。
忙しい毎日を少し離れてみれば、食べることや眠ること、身近な誰かと語らうこと、身のまわりを整えることなど、ごくありふれた営みが、暮らしの本質として改めて新鮮味をもって感じられる日々でもありました。


中国から伝わった古い言葉に「草根木皮、これ小薬なり。 鍼灸、 これ中薬なり。 飲食衣服、これ大薬なり」というものがあります。
草根木皮とは漢方薬のこと。つまり医薬や鍼灸による治療よりも、ふだん飲んだり食べたり着たりしている行為の積み重ねの方が、心と体の健康には大事だというわけです。
私たちに「飲食衣服」の源泉を授けてくれるのは自然。「飲食衣服」とは、人が自然の力をみずからの内に取り込む、もっとも身近なすべだったのです。

飲食衣服、これ大薬」は、服づくりや暮らしの提案を行う私たちが、何より身をもって体感していること。
風土に根ざした自然素材を使って誠実につくられた衣服には、心も体も元気にしてくれる力があります。

他人のものさしではなく自分の五感で「いい」と思うものを大切に。そんな思いがますます強くなる今日この頃です。

願わくは、遠くのあなたも、心地よい服に包まれて今日もお元気でありますように。
秋深まる石見銀山のまちから祈っています。

2020年秋

 


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