石見銀山 群言堂

今日からはじまる阿部家日記

阿部家は寛政元年およそ230年前に建てられた家である。
平成14年4月第一期工事で母家が修復された。
翌15年から私はこの家に移り住んだ。
最初のうちは他人の家に間借りしている居候のような気分だったが
やっと最近になって家主であることの自覚のようなものが芽生えはじめた。

家の前庭や後ろの川沿いに小さな畑を耕し季節の野菜を収穫しそれを調理する。
夏には、玄関先に千成ひょうたんの棚を、冬には吊柿、干し大根を・・。
四季折々の楽しみを堪能しながら暮らしている。
約2年間の阿部家での暮らしの中で
美しさや贅沢というものの基準が大きく私の中で変化したのを感じている。

石州和紙を通した障子ごしのやわらかな光、土壁の中の藁の線の模様、
古いガラス越しに見えるゆがんだ庭の景色の美しさ。
おくどさんで、ごはんを炊く時間の贅沢さかまどの火、煙、立ちのぼる湯気が
私を優しくしてくれる魔法の時間がここにある。
おこげごはんのおにぎりの味、湯たんぽのぬくもり、忘れていた贅沢が甦る。
エコロジー、リサイクル、スローライフ・・・すべてがこの家の中にある。

何も難しく考える必要はない。
あたりまえに暮らしていれば家が良いありかたを教えてくれる。
最年長のボーイフレンドだった大脇健一氏から
プレゼントされた額縁の中には「復古創新」とある。
私の暮らし私のものづくりの永遠のテーマである。

今日からはじまる阿部家日記。
書き続ける中で新しい何かを発見し更に私は変化してゆくだろう。


登美

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