梶山正「京都大原で暮らす」|第十二話 草刈りで身も心もスッキリ!!

知床五湖の中の一湖。かつて開拓者たちが入り、右奥の笹原を牧場にしようとしたが、あまりの冬の厳しさで入植者は全て退散したそうだ。

今年の夏は例年よりも蒸し暑いな、と感じているのは僕だけだろうか?

蒸し暑い夜は眠れないので、毎晩扇風機をかけっ放しで寝ていたら体の調子が悪い。我が家にはクーラーがないのだ。なかなか治ってくれない、夏風邪って奴は。

そんな僕にはお構いなしで、家の周りの土手は、雑草たちが元気一杯だ。

僕のように他所からここ大原へ引っ越してきた田舎暮らし志願者が、村民として暮らしていくには、やらなければならないことがいくつかある。

それはここで生まれてずっと暮らしている人にとって当たり前のことだと思われるが、僕のような街からの移住者は気付かないことも。そのひとつが、草刈りである。家の周辺の土手が草ぼうぼうだと、おそらく、ここに住みにくくなるだろう。

家の中だけでなく、家の周辺の環境もちゃんときれいにしていないと、まともな大原の村人ではない。あえてそんなことを誰も言わないが、大人ならば解ることだ。

都会の団地や新興住宅地では、町内合同草刈りのような日でも、参加しない人がいると聞く。ここ大原でそんなことしていたら不参金という名の罰金刑だ。

堅苦しいことばかり書いたが、いいこともある。元気さ余って家の周囲だけでなく、離れたところまで草刈りしてあげると、知らないうちに収穫したばかりの野菜などが、玄関前に置かれていたりする。NHKの朝ドラのような世界だが、日本で昔から続く日常の一コマなのかもしれない。

この夏に登った北海道の山の一峰であるトムラウシ山の南面。ワイルドガーデンが広がる。

昨年末のことである。

我が家の向かいにある土地を、造園業者が植木置き場として長年使っていた。ところが、業者はそこを引き払うと言う。

ベニシアは「ワイルドガーデンを作りたい!」と言って、早速そこを借りてしまった。そこを手入れできる力量はないと僕は思っていたので、反対したのだが…。

そこは400坪の台地の平坦部で、周囲の土手の斜面を入れると600坪ほどもあるだろうか。心配していたとおり、そこの草刈りが僕に廻ってきた。

トムラウシ山の山中で見たエゾシマリス。前日にヒグマを見てビビッたが、こいつは可愛い。

「業者なんか入って、変な建物とかあそこに建ったら嫌でしょう?私が借りたから、皆も自由に使ってくださいよ!でも、たまにはちょっと草刈りも手伝ってね!」とベニシアは近所の奥さんたちに声をかけた。でも誰も手伝わない。

草刈りの出動回数が増えたせいか、20年間使っていた僕の刈払機の調子がつい先日悪くなった。次の刈払機は量販品ではなく、いい物を求めて農機具専門店を訪ねてみた。

店の人に土手の斜面の草を刈ることが多いと説明すると、長い柄の部分を直接持つツーグリップというタイプを薦められた。

「肩紐をかけずにこれを使うと、もしも土手から転げ落ちるようなことがあっても、刈払機を手から放して落とせば、危険度が減りますよ」。僕はこれまで両手ハンドル付きを肩紐を通して使ったことしかなかったが、上手く使えるだろうか。

僕は8月中旬に北海道の山を登りに行く予定にしていたので、せっせと新しい刈払機で草を刈り続けた。肩紐を使わず腕だけで刈払機を持つので、けっこう腕力を使う。とはいえ運動不足解消にいいし、草刈りの後に入る風呂が気持ちいい。

知床旅情の歌にも出てくるハマナスの花。知床小清水の海岸べりに、たくさん咲いていた。

北海道では大雪山のトムラウシ山と知床の斜里岳を登った。都市部を除くと北海道はどこもかしこも、超ワイルドな自然風景が広がっていた。草刈りするところがあまりにたくさんある。

これは大変だなどと思いながら見ていたのだが、日が経つうちに超ワイルドな風景に慣れてしまい、このままが美しいと思うようになった。

夏でも涼しい亜寒帯湿潤気候で、いつのまにか僕の夏風邪も治ってしまった。1度ヒグマの姿を見かけたが、こいつにだけはとても慣れそうにない。

ハマナスの実を乾燥させるとローズヒップティーができる。地元の人は作っているのだろうか?

旅は終わり、大きくワイルドな北海道から敦賀港にフェリーで戻った。

関西の道は狭くて、やたらカーブや交差点が多く感じられた。車が多く、また、たくさんの家が混み合うように建っている。

我が家に戻り、翌朝、ベニシアのワイルドガーデンを見に行った。

草刈りなんかどうでもいいやと北海道であれほど思っていたのに、狭いがよく手入れされたこの村の風景を見ると、あまりワイルド過ぎるのは良くないかも…と感じられた。

熱い陽射しが落ちた夕方、僕は刈払機のエンジンをかけるため、スターターのコードを勢いよく引っ張った。







筆者 梶山正プロフィール

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かじやま・ただし

1959年生まれ。京都大原在住の写真家、フォトライター。妻はイギリス出身のハーブ研究家、ベニシア・スタンリー・スミス。主に山岳や自然に関する記事を雑誌や書籍に発表している。著書に「ポケット図鑑日本アルプスの高山植物(家の光協会)」山と高原地図「京都北山」など。山岳雑誌「岳人」と住宅雑誌「チルチンびと」に好評連載中。

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